古今東西(箱庭編 第1章第5話前半)
- 2015/04/13
- 09:54
パークエリアから東へ徒歩十数分、草むらからまるで境界線のように荒れた大地が目の前に広がった。
「これはまたはっきりとした境界線なのです。思ったのですがこの世界、いえ、大陸なのでしょうか。狭くないですか?」
「細かいことは気にせず、ロリゴドンですわ。げへへ」
由美はにやにやしながらヴォルカノエリアへと足を踏み入れる。
「こんなのと一緒で申し訳ないのです」
「むしろよくここまで来たね。どこから一緒なのか知らないけど」
美紅と百合もヴォルカノエリアへと入り、走って由美と合流。
「もう、2人とも遅いですわ。なんでしたらこのままわたくしがロリゴドンちゃんを独占してもよろしくてよ?」
「ゲヘヘヘヘ」
「はあ、どこまでも下品なのです」
「下品とは失礼な!」
「ゲヘ、ゲヘヘヘヘ! パンチュ、何色?」
「なんてこと聞くのさ。それが下品だっていう……っ!? 由美! 後ろ! 後ろ!」
由美の後ろの岩陰からブラジャーのような形の角と牙のあるクチバシを持つ大蛇のような頭部が現れる。
「ゲヘヘヘヘヘ」
由美は恐る恐る振り向き、モンスターと対面。
「カワイイ。チュッチュシタイ。ゲヘヘ!」
モンスターはずんと立ち上がり、その全体像を現した。
大蛇のように見えたのは首で、ブラキオサウルスをベースにその首元には太くて白いV字ラインの模様があり、その近くにはプテラノドンのような翼が生えている。
さらにアンキロサウルスのような刺々しくも硬そうな背中といったまるで合成恐竜のようなモンスター、それがロリゴドンである。
「なんだか由美みたいなモンスターが出たのです!」
「し、失礼な! わたくしはそこまで下品ではありませんわ!」
「もしかして、アレがロリゴドン?」
百合は胸元からメガネを取り出してかける。
『ロリゴドン。ヴォルカノエリアに生息するドラゴンモンスターで、美少女が大好きなロリコンであるためその名が付けられた。中でも特に好物なのは小柄な体型に反して乳房が発達した美少女であるため実は哺乳類ではないかという説が出ているが真相は不明。なぜか♀しかおらず、単為生殖によって増殖し、ゲヘヘという下品な鳴き声をあげ、迷い込んだ少女を襲う』
「ほら、説明にも下品だと言われているのですよ。しかし、増殖という嫌な表現はもちろん、この場合襲うという表現はアウトな気がするのです」
「そ、そんなことより、そのメガネはなんですの?」
「これ? この世界の生き物の情報がわかるメガネ型の図鑑。ルインエリアにいるパンデモンからドロップした」
百合はメガネを胸元へとしまった。
「ゲヘヘヘヘ、イダダギマアァズ!」
ロリゴドンはクチバシを開けて百合の白いワンピースの裾目がけて首を伸ばす。
「マルス!」
空から真っ赤に燃える隕石が降り注ぎ、ロリゴドンの首に衝突。
「グエッ! イ、イイデスワ、百合チャンノ愛ノ炎! ゲヘ、ゲヘヘヘヘ!」
「なんで私の名前を知ってるんだ!? ザトゥルン!」
ロリゴドンの足元に衝撃が走り、浮かび上がった岩塊がロリゴドンを叩きつける。
「モ、モット! モットワタクシヲ痛メツケテクダサイ!」
「わたくしも百合ちゃんになら……い、いえ、なんともしぶといモンスターですわね」
由美も杖から氷の塊をロリゴドンへ放つ。
「ハア、コレデハ物足リマセンワネ。火力ガ全然違イマスワ。ココハヤハリパンチュノ前ニ……ゲヘヘ」
ロリゴドンは百合の胸元へと首を伸ばす。
「なんで私ばっかり!?」
百合は大鎌を振るい、ロリゴドンの首を傷つける。
「ダ、ダッテ後ノオ二方、胸ガペッタンコナンデスモノ。タダノ美幼女デハナク、ココハヤハリギャップ萌エガ欲シイデスワ」
「な、なんですって!?」
由美は怒りの炎をぶつけるようにロリゴドンへ火の玉を放つ。
「どいつもこいつも胸、胸って、女は胸ではないのです! 大きければいいってものではないのですよ!」
美紅は剣でロリゴドンの首を傷つける。
「波濤へ沈め! メルクーア!」
ロリゴドンの周りを水の渦が囲み、ロリゴドンを飲み込んで押し潰すように強い衝撃を与える。
「グエッ! ゲ、ゲヘヘヘヘ……」
ロリゴドンは満足そうに倒れた。
「まったく、頭に来ますわね。人が気にしていることを」
由美は自分の胸をぺたぺたと触る。
「いや、あんたが言うなです。うう、むかつくのです」
美紅も自分の胸をぺたぺたと触る。
「さあ、さっきのは見なかったことにして石津を捜しに行こう」
「胸のあるやつは黙ってるのです!!」
「このイライラをそのお胸で解消――ぐえっ!」
いやらしく指を動かしながら近づく由美だったが、百合の回し蹴りが脇腹に直撃。
「け、怪我人はもう少しいたわるべきですわ。いっ! 痛い」
「普通の怪我人だったらこんなことしてないよ」
「うっ、ぐっ……い、行きますわよ、石津を捜しに」
由美達は火山のほうへと歩き始めた。
十数分間歩き続けるとティラノサウルスをベースにトリケラトプスの襟とステゴサウルスの背板が生えたスミレ色の恐竜モンスターが海岸にいるのが見えた。
モンスターはまだこちらに気付いていないようでじっと何かを見つめており、百合はメガネをかけてこのモンスターを調べる。
『スミレドン。圧倒的な脚力と高度な知性を併せ持つ上級ドラゴン。牙や爪に猛毒を持つので例えかすり傷でも十分致命傷になりうる。さらに血液や筋肉にも神経毒が含まれているため、食用にするのはまさに自殺行為。毒のブレスや大魔法を操る凶悪なイメージとは裏腹になぜかぬめっとした生き物が大好きで、それを見つけると無我夢中になるかわいらしい一面もある』
「海をじっと眺めてまるで周りのことを気にしていない無防備な状態。ということは、あの近くに……ふ、ふふふ」
百合はそのままスミレドンの視線の先を探す。
するとそこには背中に白い火山のような突起物が生えたアザラシほどの大きさのアメフラシモンスターがいた。
『ユキフラシ。スノーエリアに生息するアメフラシのような不定形モンスター。かなり大人しい性格で自分からは危害を加えないが、その名の通り刺激を受けると背中の穴から雪雲を噴き上げ、吹雪を巻き起こす。海岸に漂着してくることもあり、食べた海藻から毒を体内で作ることもあるため食用にはあまり適さない』
「うへえ、気持ち悪い。相手は上級モンスターですし、今なら襲われる心配はなさそうなのでさっさと行きますわよ」
そのまま火山へ向かおうとする由美と美紅であったが、百合は海岸のほうへ歩いていく。
「ちょっと、どこへ行くのですか? そっちは危険なのですよ!」
制止する美紅であったが、百合は大鎌へまたがりスミレドンとユキフラシのほうへ飛んでいく。
2人も必死に追いかけるが、百合は既にスミレドンの隣へしゃがみ込んでおり、ユキフラシにうっとりしている。
「かわいい……」
スミレドンも夢中になっているようで襲ってくる気配はない。
「まさか、いなくなるまでじっと見ているつもりなのですか? この手の生き物はあまり動かないし、動いてもかなり遅いのですよ?」
「……」
百合とスミレドンはユキフラシをじっと見ている。
「早く卒アルおじ様を捜しに行きますわよ。これでは何のために来ているのやら」
「ロリゴドンがまさかのロリコン恐竜だったからといって、あんたが言わないでほしいのです」
そこへバサバサと羽ばたく音がし、砂埃を巻き上げながらロリゴドンが着地。
「ゲヘヘ」
「また由美みたいなのが来たのです」
「失礼な! わたくしと同系列に扱わないでください!」
「ゲヘヘ、スミレドンダ。ゲヘヘ」
「やはり人間よりも恐竜のほうがいいのでしょうか。それにしても下品なのです」
「ゲヘヘ、スミレドンタン、チュッチュシタイ。ゲヘヘ」
ロリゴドンはクチバシでスミレドンの体をつんつんと突く。
それでもスミレドンは気付かない。
「ゲヘヘヘヘ、イダダギマアァズ!」
今度は口にキスをしようと首を伸ばすロリゴドンであったが、スミレドンが吐く紫の炎のようなブレスを浴びる。
「グエッ! ゲヘヘ、ソンナニ照レナクテモイインデスノヨ」
「……マルス!」
空から真っ赤に燃える隕石が降り注ぎ、ロリゴドンの頭に直撃。
「グエッ! ゲヘヘヘヘ」
「……ガイズィア!」
ロリゴドンの足元から毒素が間欠泉のように噴き出した。
「うわ、危ないのです!」
美紅と由美は巻き添えをくらわないよう必死に避ける。
スミレドンは上体を起こし、口から紫色のレーザーをロリゴドンの足元へ吐き出す。
すると地面が爆発するように岩塊を巻き上げる。
「グエッ! ゲヘヘ」
ロリゴドンは満足そうに倒れた。
「さすが上級モンスターなのです。恐ろしいのです」
「こんなのわたくし達で倒せる相手ではありませんわね。あのシロクマが制止していたのもよくわかりますわ」
しかし、そんなスミレドンも百合の隣に戻ってユキフラシにうっとり。
まるで子犬が甘えたときのような声で鳴く。
「って、百合ちゃん、まさか、そこから一歩も動かなかったんですの?」
「だってかわいいんだもん。ほおら、ようし、よしよしよし」
百合はユキフラシを激しく撫でたりキスをしたり。
スミレドンもそれを見て甘えた声でユキフラシに頬ずりをする。
「こっちの恐竜は百合さんみたいなのです」
「いつまでも気持ちの悪いものばかり見ていないで、まったく、置いていきますわよ」
「私がいなかったらロリゴドンにすら勝てないのに? かわいいでちゅね。ふふふ」
百合とスミレドンはユキフラシをかわいがるが、とうとうユキフラシの背中の穴から雪雲が噴き出し、そのまま吹雪が巻き起こる。
「さささ、寒い! は、早く! 早く行きますわよ!」
それでも百合とスミレドンはユキフラシを撫で続ける。
「む、胸がある分私達より寒さに抵抗があるのでしょう。うう、身も心も寒いのです。悔しいのです。そ、そそ、そういえば、何かの本で見たのですが、その手の生き物が好きな子は欲求不満で大胆とあるのです」
「うるさいうるさいうるさい! ヌルヌルしてるのが気持ちいいのは認めるけどそんなんじゃないもん! たまたまかわいいのにそういうのが多いだけなんだもん!」
百合はぷくっと頬を膨らませて美紅達に振り向く。
「わかったよ。行くよ。スノーエリアに行けばいっぱい会えるもんね」
渋々立ち上がり、寒さに震える由美と美紅とは対照的にまったく震えずに2人の後をついて火山のほうへと歩いていく。
続き
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