鎖#27
- 2018/11/25
- 06:44
前回 最初へ
職員室から鍵を取り、外へ出て体育倉庫を開けようとしたのだが、明崎さんの手が直前で止まった。
「どうしました?」
「しっ、誰かいる」
なんだって? 鍵はあったし、閉じ込められたのか?
「下がって、そのほうがいい」
俺達が下がるのを確認すると、明崎さんは慎重に鍵を開けた。
「……行くわよ、準備はいい?」
俺はスコップを持って身構え、頷く。太田は俺の顔を見てから頷いた。
ドアを開けると同時に教頭のゾンビが!
明崎さんは俺が攻撃しようと判断するよりも先に教頭を蹴り倒す。
「ウアアアアアアア」
俺が追撃を仕掛けるタイミングがないほど素早く、無表情に淡々と教頭を蹴り続ける明崎さん。
なんていうか、手慣れた感じもそうだが、日ごろの恨みもありそうでゾンビ以上に怖い。
「ウッ……ウアッ……」
あっという間に教頭はピクリとも動かなくなった。
唯一武器を持っている俺が校長を倒したときよりも早く倒してしまった。
そんなことより、教頭は誰に閉じ込められたんだ? 校長か?
だとして、鍵を職員室に戻したはいいがなぜまた外に出る?
疑問は残るが、これで野球バットという最適な武器を確保できた。
これなら外で持ち歩いていても怪しまれないし、リーチも破壊力も申し分ない。
本来なら考えたくはないが、こいつで頭を殴られたらいくらゾンビでもひとたまりもないだろう。
「お、おい、大丈夫かよ」
太田が教頭を見ながら心配そうに声を震わせた。
「彼は私達が来る前にはもう死んでいたわ」
「どうしてそんなことがわかる!?」
「仮に生きてたとして、鍵は外からしか掛けられない。自分だけ安全圏で、しかも飲食もトイレもないこんなところにいつまでいられるかしら。だからゾンビ化したところを誰かがうまく閉じ込めたとしか考えられないわ。物音が聞こえた時点でそれくらい判断できてた」
さすが明崎さん。俺達の何歩も先の鋭い判断力だ。
「お、おう、ならいいんだけど」
「とりあえずこれで拓真君の希望通り武器は確保できた、と」
グシャッ! 明崎さんはダメ押しに教頭の顔を叩き潰した。
「あはははは、悪くないね」
過去に何かあったかもしれないが、立場は違えど同じ職場で働いてた元人間だぞ?
今のはさすがにひどすぎるんじゃないか?
「あら、どうしたのその顔。ふふふ」
「いや、その……」
「あらあら、生前が誰であれ躊躇っていたらやられるのはこっちなのよ? 生き延びたかったらそういう無意味な優しさは捨てなさい」
明崎さんってこんな人だったっけ? まあ、言ってることは間違ってない。
悲観するくらいなら今この瞬間を生きることを考えろってことか。
だが今ここにいない歩夢や山谷さん、俺の親父、お袋ともしこういう形で再会してしまうことになったらなかなか難しい。
考えたくもないことだが、いざというときのために頭に入れておくべきか……。
明崎さんくらいの冷血さが欲しいくらいだ。
「さ、ひとまず相談室へ戻りましょ」
切り替えも早い。女性は強いっていうのは本当だな、こんな局面でもこういうものだと割り切って行動している。
一方、太田はまだ不信そうな顔をしているが、無理もないか。
まあ正直、俺でも正気を疑うレベルで冷血だな、これは。
でもそれが役に立つ。むしろそうでなければ生きられない世界になっちまったな。
続き
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