鎖#14
- 2018/10/26
- 08:57
前回 最初へ
外へ出たが太田と歩夢はまだいなかった。
連絡もないし、今が追跡中だったり取り込み中だったりしたら悪いので俺は帰ることにした。
「それはもう何度も言ってるんですよ」
安倍先生の声だ。何を話してるのか気になったので隠れて聞いてみる。
もう1人は校長か。もしかして御手洗さんのことか?
「安倍先生、それでまた問題になったらどうするんですか? そう何度も隠蔽できる問題じゃないですよ?」
隠蔽? 聞いていきなり校長の口から不穏なワードが出てきたな。何の話だ?
「話を聞いているうちに鬱になって自殺なんてよくある話じゃないですか。あれだって実際そうだったでしょ?」
は? 自殺? 自殺を隠蔽してたのか? 誰が自殺した?
「ですが安倍先生、万が一ということもあります。それで学校の評判に響いたら我々は、もう……」
「な、何が万が一かね。だいたい、あれは表沙汰にはなっていないでしょう。みんなやめたと思ってますよ。そういう事態が起きたとしても同じように説明すればいいのです」
「……私もその案には賛成しましたが、今思うと気の毒なことをしてしまったなと、私なりにいろいろと思うところがあるんです」
「まさか公表するわけじゃないですよね?」
「いや、さすがにそれは」
「ですよね」
安倍先生はほっとしたように笑った。
この野郎、詳しいことは知らんが死人が出てるんだぞ?
自殺を隠蔽して辞任したことにするなんて……。
「そういえば安倍先生、例の女子生徒の件はどうなりました?」
「それなら相談員と協力する形にしました。歳も近いですし、何より女性ということもあるので、問題の理解力もあると考えまして」
嘘つけ、何が協力だ。もっともらしいこと言って丸投げしてるだろ。
「なるほど、それは頼もしい」
「ええ、今回はまだ大丈夫でしょう。いざとなったら食い止めてみせます」
まだ大丈夫? まさか、自殺したのって前のスクールカウンセラーか!?
ってことはこいつ、仕事の押し付けで自殺へ追い込んだ?
いや、待て待て、まだ待て、さすがに待て、俺よ。今は行くな。
本当にそれが原因で自殺したのか? 行くにはまだ情報が少なすぎる。
「おや、校長先生、安倍先生、どうしたんですか?」
生徒指導の堀内先生だ。
この件は安倍先生じゃなくてこういうまともな人が動くべきだな。
「御手洗里奈と山谷小雪という女生徒の間で起きた問題なんですが、堀内先生はどのようにお考えで?」
「ああ、その話でしたか。実はボクもその話をしようと思っていたんですよ」
「ほう、ではお聞かせください」
「その件なんですが、全部ボクに任せてくれませんか?」
「え?」
意外な提案に安倍先生は間抜けな反応をした。
俺はその声で笑いそうになったのを必死で堪える。
「い、いいんですか? この件は、相談員とも連携して……」
「いえいえ、いいんです。明崎さんにはボクから後で言っておきますから、この件はボクが受け持つことにしますよ」
このときの安倍先生の顔を見ておきたかったが、今度こそ本当に笑いそうなのでさすがにそれはやめておく。
安倍先生としては明崎さんに仕事を押し付けて自分はのんびりするつもりだったらしいが、意外なところから意外な申し出が来て計算を狂わされたみたいだな。
こっちとしては本当に頼もしい限りだ。
どこかで先生なんて所詮こんなもんだと決めつけていたが、まだ希望は残っていた。
「そ、そういうことでしたら、断る理由はありませんな」
「ありがとうございます」
堀内先生が指導してくれるようになったみたいだし、こっちに傾いてきたな。
続き
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